何十回目の正直
「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですか?」 何千回と繰り返されたフレーズを口にして、目の前の客の注文を聞く。スーツ姿のサラリーマンやOLがならぶ列を横目で見ながら、今日も結構忙しいな、と私は心の中でため息をついていた。 神室町ヒルズに…
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長生きしてね
「なんや、最近豪華やな」 テーブルに並べられた食事を見ながら真島が呟く。 すると、麦茶を両手に持ったが首を傾げながら返事をした。「そうかな?」「前より品数増えてへんか?」「あぁ、確かに増えてるかも。多い?」「別に問題あらへんけど……なんかあ…
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蛇のドレスをあなたに
恥ずかしすぎて大きな声では言えないが、人生で一回はやってみたかったお揃いコーデ。高校卒業したての若者じゃあるまいし、いい歳した大人がこんなこと言うなんて引かれそうだけど、先日たまたま見つけてしまったのだ。 パイソン柄のタイトなワンピースを…
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ゴロちゃんの手も借りたい
「姐さん、どうしましょう……これ終わりませんよ」 眉を八の字にした西田さんが半泣きで私に話しかける。「うーん……どうしよう……」 私達の目の前には、天井にも届きそうな高さの書類の山。それを二人で呆然と見つめながら途方に暮れていた。 事の発端…
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静寂の中の幸せ
「帰ったで〜」「おかえりなさーい」 玄関で靴を脱ぎながら声をかけると、部屋の奥にいたであろうがパタパタと音を立てながら近づいてきた。 とは付き合ってもう5年になる。自分がよく通うバーに彼女が顔を出すようになり、一言二言と声を掛け合ううちに、…
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香りの記憶
「あー、しもた」 珍しく焦ったような声を出す真島さんのほうを見ると、口にタバコを咥えたまま壁にかかっているジャケットのポケットをゴソゴソと漁っている。「ちゃん、火持っとらんか?」「火?」「ライターや、ライター。車の中に忘れてきてしもた」 そ…
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ベストタイミング
とある日曜の午後、私と真島さんは特に何をするわけでもなくダラダラと部屋で過ごしていた。 数十分前に何となしにつけたテレビをぼうっと観ていると、そこには昭和、平成、令和の歴代ヒット曲をランキング順に紹介している番組が映し出されている。 私の…
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